【専門家コラム Vol.17】コト消費をモノ消費へと繋げるために必要なこと

コラム

2017/08/21

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2017/08/21

【専門家コラム Vol.17】コト消費をモノ消費へと繋げるために必要なこと

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執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役

ちょうど1年前の当コラムで、「訪日外国人の変化を見逃すな」と題して、モノ消費からコト体験が重要になってくるという話をしました。最近ではインバウンドに関わる方は皆さん「モノからコトへ」の変化を意識していらっしゃるので、私のところへ来るお問い合わせ内容も、「外国人のニーズがシフトしているので、コト体験を提供したい」「どんなコト体験がウケるのか?」といったものが増えています。
  
観光庁が発表した訪日外国人旅行者の消費動向調査を見ると、次回来日時にはコト体験をしたいニーズがあることがよくわかります。今年4-6月の調査では84.3%が行なったショッピングが次回では半分近くに減るのですが、グラフに載せたようなコト体験=自然体験ツアー・農漁村体験、スキー・スノーボードや舞台鑑賞などは大きく増えます。いずれを見てもリピーターならではの希望と言えそうです。

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実際に、大阪ではコト消費を促そうと、夜間のエンターテインメントを充実させる「夜輝く大阪」を官民で推し進めています。また、バスツアーでおなじみの「はとバス」では、インバウンド向けに、体験を重視したツアー商品を積極的に導入しています。例えば、着物の着付け体験をしながら鎌倉を散策できるツアーや、フルーツ狩りをしながら富士山観光をするツアー、和太鼓とプロジェクションマッピングを融合させたエンターテインメントを体感できるツアーなどです。

コト体験だけでは地域は潤わない

ただ、ここで一歩立ち止まって考えていただきたいのは、コト体験、つまり、コト消費だけだと地域にはあまりお金が落ちないということです。外国人観光客の消費額は2016年に3.7兆円を超えましたが、2017年4-6月期の外国人観光客の消費費目別割合を見ると、コト消費に該当する「娯楽・サービス」は全体の3.2%。「買い物」に使う割合は38.5%と、使う金額がまったく違います。

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コト消費だけにこだわると集客はできるかもしれませんが、なかなか地域を潤すことができません。もちろん、高単価なコト体験を提供すればいい、という考えもありますが、高単価になればなるほどさらに労働集約型になるでしょう。

最終的にはモノ消費につなげる

大事なことは、コト体験はあくまでフックで、コト体験で外国人を呼び込んだうえで、最終的にはモノ(あるいは他の売りたいもの)を買ってもらうところまでこだわる、ということです。
  
例えば、コト体験が済んでもその地にとどまってもらうために、食事や買い物、宿泊までその地域で行われるようなルートを作ったり、他のコト体験との相互送客を行なったり。また、体験をした商品や関連商品を確実に買ってもらうための工夫をしたり。つまり、今後はよりビジネス感覚(マネタイズ能力)が問われるようになるはずです。
  
最近では外国人にも人気の包丁ですが、貝印という包丁のメーカーでは、長く愛用してもらうため、ファンを作るために、日本を訪れた外国人に対して日本料理を作る有料の体験プログラムを提供しています。現地に帰ってからも使えるレシピで体験を提供しているのですが、包丁を売りたい、そのために包丁のファンを増やしたい、それを体験を通して実現する。メーカーでありながら、コト体験を切り口に新たなチャレンジをしている点が興味深いと思います。
  
当たり前といえば、当たり前のことですが、最近はメディアでもどこでも「モノからコトへ」、だから「コト」を提供すればいいんだ……、という風潮になっているように思います。そこが終着点ではないことを認識して、広い視点でインバウンドを考えてみましょう。

  • 村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役

    兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。著書に「インバウンドビジネス入門講座」「インバウンドビジネス集客講座」(いずれも翔泳社)がある。

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