やさしい日本語とこれからの自治体行政の情報発信

インタビュー

2022/02/28

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2022/02/28

やさしい日本語とこれからの自治体行政の情報発信

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60カ国以上の外国人住民が暮らす多様なまち、大阪市生野区。その生野区では、MCCatalog+をご利用いただき10言語でのデジタル情報発信に加え、やさしい日本語を活用した情報発信に力を入れられています。
今回は生野区シティプロモーション・多文化共生担当の上林(かんばやし)様に、多様な情報発信の取り組み方やご感想についてお話を伺いました。
これからやさしい日本語を取り組もうとお考えの方にはぜひ一度お読みいただけましたらと思います。

 

大阪市生野区役所 企画総務課
上林政俊氏

 

Q.1
やさしい日本語を取り組むきっかけとなった背景や経緯をお聞かせください

 

大阪市生野区は、住民の5人に1人が外国人であり、外国人住民比率は国内都市部で最も高いまち。その国籍は60カ国以上にのぼります。

最も多いのは韓国・朝鮮で、ベトナム、中国とつづきます。ここ数年では、韓国・朝鮮は減少傾向にありますが、ベトナム、中国は、ゆるやかに増えている状況です。

 

 

このような状況の中で、区役所では多文化共生の取り組みを進めています。

やさしい日本語は、その多文化共生の取り組みを進めるにあたっての、大切な要素の一つと考えています。

まずは区の多文化共生の取り組みの進め方についてお話します。

 

 

 

区の多文化共生の取り組みの進め方は、4つの段階を意識して進めています。
まず第①段階では、「区役所がまちで暮らす人を知ること」。
広報紙の取材や、イベントを通じて、まちの人から「聴く」ことに力を入れています。

 

毎月発行する区の広報紙では、区内で暮らす外国人の方にインタビューをして、その「人」を紹介する連載記事をつくりました。これまでに20カ国、32人の方をご紹介。
これが、第②段階としての「区役所から区民のみなさんへ伝える、知ってもらう」ための発信の一つにもなります。
そして、第③、第④段階として、「区民と一緒に取り組む」「区民同士で企画する」につづいていきます。

 

 

 

やさしい日本語は、この取り組みの中でもツールのひとつです。この広報紙でのインタビューも多くは、やさしい日本語で行っていますよ。

 

Q.2
やさしい日本語を活用して、主に取り組んでいることを教えてください

 

生野区役所のやさしい日本語の主な取り組みは3つあります。

 

 
1つめは、区役所職員に向けた、やさしい日本語の研修です。
この研修は、生野区役所に新たに異動で来た職員に向けての「接遇」研修の中で行っています。区役所で特に大切にしているのは、やさしい日本語のマインドの部分。
それぞれ職員が窓口等で相手にあわせて「やさしい気持ち」でコミュニケーションをとれることをめざしています。
 
2つめは、区役所からのやさしい日本語での情報発信です。
災害情報はもちろん、日常の生活情報もツイッター、フェイスブック等を通じて随時発信しています。
2018年6月の大阪北部を震源とする地震の時には、区役所のツイッターでやさしい日本語を使った公共交通機関の運行状況についてツイートをしたところ
同じ内容の通常の日本語でのツイートの約14倍の閲覧件数となり、やさしい日本語への関心の高さに驚きました。
 
一番特色があるのは3つめの取り組みです。
これは話しことばのやさしい日本語に注目した「やさしい日本語から、つながろう」という「やさしい日本語からはじまる新たなコミュニティづくり事業」です。
これは、やさしい日本語をコミュニケーションツールの一つとして、「人と人」がつながるきっかけとなる取り組みです。この取り組みに対する想いについて、「趣意書」にまとめて公開しています。
 
「近所で、学校で、職場で『いろんな国の人に出会える』まち。世界につながる生野区だから。大阪中に、そして日本中の「やさしい日本語」をスタンダードにするための、はじめの一歩を届けたい。」
 
この事業では「やさしい日本語 缶バッジ・ステッカー」デザインをつくって公開しています。
これは、事業の趣旨に賛同してくれる人に缶バッジを、お店に店頭に掲示できるステッカーを、区役所主催のイベントや、区役所職員が区内小中学校等への出前授業へ出向く時などに配布しています。
また、このデザインが広がり、やさしい日本語をきっかけに、一人でも多くの人がつながってほしいと願って、生野区役所のサイトで公開し、データを自由にダウンロードできるようにしています。
 
 
 
 
 
 
区役所では、賛同してくれているお店、つまりやさしい日本語の活用に積極的に取り組んでくれるお店を「やさしい日本語協力店」として「一覧と地図」で広く住民に紹介しています。
やさしい日本語協力店を中心に、安心してコミュニケーションをとることができるコミュニティ拠点を増やすことをめざして、区役所職員が1か所ずつ取り組みの主旨を説明して増やしていっています。
25店舗からスタートしたやさしい日本語協力店は、今では174店舗になりました。
 
 
 
 
 
 
Q.3
やさしい日本語など生野区の取組みでMCCatalog+がどう役にたっていますか

 

生野区役所では、区民の皆さんへ「情報を届ける大切さ」を意識してさまざまな取り組みをすすめています。
まず情報を届ける工夫として、広報紙の全面リニューアルを実施。読みたい、手に取りたい広報紙をめざしています。

 

<リニューアル前(2018年)>

 

 

<リニューアル後>

 

手に取って、読んでみたいと思ってもらえた広報紙は、情報を届けることができます。
しかし、生野区は60カ国以上の方が暮らすまちです。外国人住民の方にも手に取ってもらいたい。
そこで、外国人住民の方に向けて、情報を届ける工夫、読みたくなる工夫の一つとして、この広報紙のMCCatalog+を活用した多言語機械翻訳版の電子配信もおこなっています。

 

<カタログポケットで多言語表示>

 

また、「MCCatalog+の活用」においては、区役所では、やさしい日本語と機械翻訳の親和性の高さに注目をして、新たな取り組みをはじめたところです。
広報紙などからピックアップした「届けたい生活情報」を、やさしい日本語で書き、そのコンテンツをMCCatalog+を使って多言語機械翻訳をする配信をはじめました。

やさしい日本語からの機械翻訳は、ふつうの日本語からの機械翻訳より、少しでも精度の高い翻訳が可能となることに注目をして、「特に伝えたい」情報をピックアップしてお届けする取り組みです。

 

 

このピックアップしたやさしい日本語の原稿は、PowerPointを使って作成しています。
ここでの作業上の工夫としては、原稿自体のルビ打ちをやめたこと。やさしい日本語で文章を書く時、ルビ打ちは基本となっていますが、今回の取り組みでは、機械翻訳を前提とした文章なので、ルビを打たず、直接機械翻訳をかけています。

その代替として、ルビなし文章の隣に、ひらがな、わかち書きでの文章を併記しています。

 

 

 

また、デジタルブックとしても活用しています。
生野区の広報紙では、リニューアル後に3本の連載記事を掲載していました。この連載をテーマごとにまとめ、デジタルブックにしました。

こちらもPowerPointを使って作成しており、レイアウトを作ってページを増やす作業を繰り返して作成しました。
このデジタルブックは、過去の連載記事を通して読める魅力があります。またブック内リンクが可能ですし、画像の拡大など、もとの記事から拡張した情報発信が可能となるメリットもあります。

あとは、なんといっても記事や画像の追加も紙媒体より手軽にできることも魅力に感じています。

 

<IKUNO × グローバル カタポケ版はコチラから>

 

Q4.
やさしい日本語に取り組んでよかったことをお聞かせください
 
新しく言語を身につける、習得する、なんてことをしなくても、日本語を普通に話す私たちが、情報を届けたい、伝えたい相手に合わせてほんの少し工夫をするだけで、新しい情報発信のツールとコミュニケーションのツールを獲得できたことだと思います。
やさしい日本語によって、情報を届けられる、伝えられる「対象となる相手」が確実に増えるので、そこからたくさんの住民の方々との新しいコミュニケーション、関係性をつくることができるものだと考えています。
 
また、やさしい日本語で、相手にあわせて、やさしい気持ちで情報発信をすること、コミュニケーションをとることで、決して外国人住民に対してだけでなく、そのマインドの部分はすべての人に対して、とても重要なものだとあらためて気づくことができたこともよかったです。
 
 
Q5.
これから取り組まれる自治体へのメッセージがあればお聞かせください
 
やさしい日本語の取り組みですが、生野区だけで取り組んでいるのではなく大阪市全体でも生野区で作った「やさしい日本語 缶バッジ」デザインをロゴとして採用して、やさしい日本語の職員研修の実施、普及啓発ポスターの作成等が行われてきたりもしています。
 
やさしい日本語は、はじめようと思うと簡単にはじめられるもの。
確かに、やさしい日本語には限界もあり、すべてが解決できるものではないとも思います。
でも、やさしい日本語の効果が見込める層(ゾーン)は確かにあり、思ったよりもずいぶん広いと考えています。
 
 
 
 
 
 
ぜひ一緒に、情報を届けたい、伝えたい相手に合わせて今よりも少しやさしい気持ちで、新しい情報発信のツール、コミュニケーションのツールとして、やさしい日本語をつかってみませんか?
そこから広がる世界は、思った以上に広いと思います。
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

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