【専門家コラム Vol.23】インバウンドとクールジャパン

コラム

2018/02/21

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2018/02/21

【専門家コラム Vol.23】インバウンドとクールジャパン

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執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役

2017年の訪日客は2869万1000人

観光庁が発表した2017年の訪日外国人数は、前年比19.3%増の2869万1000人。5年連続で過去最高を更新しました。47.1%という驚異の伸びを見せた2015年と比べ、ここ2年は2割前後の増加率で推移していますが、このペースを維持できれば、2020年に4000万人という目標も達成できそうです。

一方、2017年の外国人旅行消費額は前年比17.8%増の4兆4161億円でした。2020年の目標額8兆円まで、このままのペースではまだ開きがあると言わざるをえません。そこで、改めて考えたいのが、クールジャパンを活用したインバウンド消費拡大戦略です。

インバウンドに活かされる日本の技術

クールジャパンとは、日本が持つ独特の文化や技術を海外に発信し、日本への興味を喚起し、日本製の商品の購入や訪日に結びつけようというものですが、それを活用したインバウンド戦略として有名なのが南部鉄器です。株式会社岩鋳は鉄瓶や急須、鍋類などの多様な南部鉄器を製造する会社ですが、2010年の上海万博に鉄瓶を出品したところ、「中国茶との相性の良さ」で一気に中国人から注目され、”爆買い”の象徴的存在として報道されるまでになりました。
  
ただし、これはあくまで一つの側面で、岩鋳が行った海外市場へ向けてPRの歴史を見ないとインバウンド戦略の本質は見えてきません。彼らは50年近く前から、欧州の富裕層に売るため、展示即売会や見本市に出展、岩鋳ブランドの認知度を浸透させ、今ではアメリカ、アジア、欧州で幅広い層から支持を集め、海外売上比率が5割程度まで伸びたといいます。
  
彼らが成功した大きな理由は、既成概念にとらわれなかったことです。日本人が思い描く南部鉄器とは異なるカラフルなティーポットなど、外国人のニーズに合わせた商品開発がそれです。特に重要なのは、お客の要望を聞き入れるというだけではなく、ニーズを把握する努力も怠っていない点でしょう。市場調査も兼ね、年に1回は必ず各国を訪問。その際には現地事情に精通した日本人通訳を介し、現地ニーズを把握する情報収集に努めているそうです。

訪日客はPR大使

日本政府はクールジャパン戦略の一環として、日本酒の輸出に取り組んでいます。2017年の日本酒の輸出金額は前年比20%増の187億円で、過去最高でした。最近では訪日客の間で酒蔵めぐりも人気です。彼らは日本酒の文化や歴史、技術に触れた後に試飲をして、土産用の商品を買っていきます(2017年10月の訪日外国人旅行者向けの酒税免税制度の施行で、消費額はさらに増えることでしょう)。
  
私はここにクールジャパンを成功させる秘訣が隠されていると感じます。というのも、今日本を訪れている外国人観光客は、最高のPR大使だといえるからです。たとえば、まだまだ初訪日が多い欧州からの観光客の場合、帰国後に友人や会社の同僚に日本旅行の土産話をするでしょう。日本の酒を飲みながら話題に挙がるのは、やはり五感を通じて体験したことや、「ただ美味しかった」に収まらない商品のストーリー性です。もっと言えば、それらはインターネットでの書き込みも促すことができ、口コミによるファン拡大につながっていくのです。
  
クールジャパンを推し進めていくうえで大事なことは、商品の良さをしっかりと言語化して伝えることと、体験プログラムを組んで肌で感じてもらうこと。この二つの視点の重要性を改めて確認してみてください。

  • 村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役

    兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。著書に「インバウンドビジネス入門講座」「インバウンドビジネス集客講座」(いずれも翔泳社)がある。

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